魅惑の外道達

魅惑の外道達

ヒメジ、ベラ、ヘダイ、グレ、赤エイなど、外道という不名誉な呼ばれ方をする魚達。 光と影、どんな世界にでもある勝手な勝負付け。理由は色々とあるが、まとまった水揚げがなかったり料理人が使いにくく(扱えず)、買い手が少なくお金になりにくいので漁師の扱いも荒く、状態の良くない物が出回る。多くの調理師が年中安定した味を求め今日も養殖の鯛や冷凍のブリを仕入れる。(これが悪い訳ではない。)...
ピエロのワイン(後編)

ピエロのワイン(後編)

翌年、三重県に帰った私は師匠から戦いのステージをいただいた。28歳でミュゼボンヴィヴァンのシェフに就任。その時師匠に「伊勢と全く違うカラーを打ち出せ!」という司令をうけ、山の恵と共にワインに力を入れた。数年後、さらなるレベルアップを図るべく、タルヤスの鬼頭さんにコラボイベントのお願いをし、今も毎回満席の人気イベント「マリアージュの会」をスタート。 そのイベントのクオリティにインポーターが食い付き、地方ではあり得ないような世界的なワイナリーを招いての美食の会を何度も開催。...
ピエロのワイン(後編)

ピエロのワイン(前編)

黒いギャルソン服に黒いタブリエ。 いつもより長い時間鏡を見る自分の胸元には金色の葡萄バッジがあった。 本気の戦いで負けた23歳の夏。 あれから1年、かなり精度を上げ掴んだ念願のソムリエ資格。取得後の景色は変わり、ワイン業界の付き合いが増える中で数人から言われたある人物の話。 「エクシブのシェフソムリエ知っとる?」。同世代のライジングスターだと皆が口を揃える。数年後、友人の祝いでエクシブに行った時、彼の姿はなかった。...
85年目のクレパス

85年目のクレパス

平成29年 立冬、ハシボソガラスの乾いた鳴き声が広大な橙色の敷地に響く。昭和8年から続くこの景色は、津市高野尾にある前川さんがご夫婦で営む果樹園。創業からこの丘を見守る樹齢86年の次郎柿は、祖父から繋げてきた誇り。当初は柿一色だった果実も、今では種類豊富な柑橘類やザクロに巨大なスイーツキウイ、私が樹ごと買わせていただく大きなサルナシなど、まるで色鮮クレパスのようにこだわりの品が揃う。...
弱虫ソムリエの逆襲

弱虫ソムリエの逆襲

「はい、そこまで。鉛筆を置いてください。」人生で初めて本気で勉強し、回りの期待を背負い挑んだ真夏のソムリエ試験。結果は実力不足で不合格。負けを引きずり不平不満に塗れた23歳の自分。 数カ月後、脱線したワイン街道行きポンコツ列車の車輪を正してくれたのは、一番期待していただいた師匠である河瀬シェフでした。「残念やけど、逆にお前はポンと受かった人らより倍勉強出来る。後方から一気に捲くったれ!」魂に再びガーネット色の炎が灯りました。...
未熟な煙の魔術師

未熟な煙の魔術師

燻した香りは本質を天使にも悪魔にもする…。 ワインに使われる樽を作る際、内側をバーナーで焼き木をしならせ組み立てていく。焼き加減や木の種類、樹齢などによってワインに溶け込む香りや味わいが違ってくる。 安い木の樽で仕込んだワインはフィネスに欠け、大味な甘苦味を呼ぶ。上質な樽はワインに深みと複雑味そして厚みを持たせ、私達を虜にする。 同じように料理人がよく使う燻製。私は軽く煙をまとわす程度にとどめる。どうしても支配的になりすべてが同じ香りになる事に少々抵抗を感じていた。...