執筆者 ginjiro | 23年06月21日 | コラム
休み明けの火曜日、若いスタッフが行う儀式がある。今回は2月に入社したパティシエール(女性パティシエ)がその当番。大きなまな板、私の使い込んだ骨すきと言われる包丁を握りしめ、相手に挑む。 その相手とは赤い羽のひねどり。芸濃町の鳥鹿養鶏園さんが生産する、ブロイラーの10倍ほどストレスなく長生きしていた鶏であり、私たちに健康な卵を産んでくれていました。...
執筆者 ginjiro | 23年06月21日 | コラム
桜の花びらがひらひらとレストランの裏口を飾る。朝の出勤時間で一番気持ちが良いこの時期。私のもうひとつの楽しみは限られたこの4週間、サツキマスが津の前浜で捕れることです。 サツキマスはアマゴの降海型で、川に残るアマゴに比べ随分と大きくなります。故郷である木曽三川へ産卵で帰る途中、津の前浜の魚道を4週間ほど通ります。そこは定置網をし変えるのは、この地の漁師だけが知る特権です。...
執筆者 ginjiro | 23年06月21日 | コラム
あるオーガニック系のマーケット。参加者がその姿を見つけると、目線に合わせて上体を沈める。つやっつやの肌と満面の笑み、そして山の声を代弁して喋る。 坂本幸さん、美杉在住の働き者のおばあちゃんこそが、最も原始的な保存食のスペシャリストであり、私の心の師である。 力漲る元気な野菜や野山の実りと対話し、極上の素朴を生み出す。ステーキ大根と言われる凍み大根、菊の花茶、干しスギタケ、トマト味噌など、私の料理に欠かすことの出来ない幸さん商品は体が喜んでいるような余韻の広がりである。...
執筆者 ginjiro | 23年06月21日 | コラム
年明け、市場からの荷物に厨房から歓声が上がる。騒ぎの主は90cmをゆうに超える8キロの天然ヒラメ。朝、津の前浜で揚がった海の幸。津の前浜はいくつもの川が、深い山の養分を運び、やわらかな海水が生まれ、遠浅で穏やかな潮の中でプランクトンをはじめ小さな生き物たちがよく肥える。以前、漁師から教わった。 「餌がよく肥えとるからそれを食べる大きいもんもよく脂がのっておいしい。人間でも食べたらわかるわ、餌のおいしさは」 前浜で穫れる小さい魚介類は塩分濃度が薄いので傷みが早い。小エビや小イワシは、鳥羽や志摩のものに比べ、直ぐにくすんだ色になる。...
執筆者 ginjiro | 23年06月21日 | コラム
11年前に三重県立美術館内にある、レストラン「ミュゼ・ボン・ヴィヴァン」のシェフに就任した時、師である伊勢ボンヴィヴァンオーナーの河瀬毅シェフに命名していただいたのが「野犬シェフ」です。なんでも「疲れを知らず野山を駆け巡り、面白い食材や人との出会いをガブリとくわえてきそう」と、いろいろな意味を込めて名付けていただきました。 最初の頃は、「ほかにないもの」「フランスを感じるもの」と、大したことないくせに「どうだっ」という思いで包丁を握っていました。...