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フランスにはない夏ジビエ

執筆者 | 6月 21, 2023 | コラム | コメント0件

「生後3ヶ月 雌の子鹿のローストです」。

ミュゼにおいては毎日耳にするフレーズだが、本場フランスにはない。元々狩猟民族であるフランスでは厳しく猟期が定められており、ジビエは冬のご馳走である。

肉質は血を体に回した野性味のある肉に、たっぷりの洋酒やスパイスを使い複雑に仕立てた皿に、濃い赤ワインを合わすのが本場のスタイル。

そんな中、日本においては近年爆発的に増えた鹿や猪を1年中駆除し、厳しいルールを設け、山の恵として全国的に工夫がされている。

12年間、故郷伊勢志摩を背中で見ながら、津の山と向き合ってきた私が年中ジビエを使う中で自然と生まれた、ミュゼにしかない四季の味。立春には蕗の薹(ふきのとう)などの野草と若い雌鹿を合わせ大地の優しさを表現し、菖蒲(しょうぶ)が華を咲かせる頃には、絹のように柔らかな仔鹿が皿の上で躍動する。

猟師が皆口を揃えて「一番旨い」と言う三の又の大きな夏の雄鹿は、彼岸花が顔を出す頃、盛りに入るまでが脂がのって味が濃い、まさに王者の味。合わすのは私が摘んだスギタケやポルチーニなどの森の妖精達。

誰もが簡単に使うようになった「地産地消」という言葉を、今日も自分に問いかける。