年明け、市場からの荷物に厨房から歓声が上がる。騒ぎの主は90cmをゆうに超える8キロの天然ヒラメ。朝、津の前浜で揚がった海の幸。津の前浜はいくつもの川が、深い山の養分を運び、やわらかな海水が生まれ、遠浅で穏やかな潮の中でプランクトンをはじめ小さな生き物たちがよく肥える。以前、漁師から教わった。
「餌がよく肥えとるからそれを食べる大きいもんもよく脂がのっておいしい。人間でも食べたらわかるわ、餌のおいしさは」
前浜で穫れる小さい魚介類は塩分濃度が薄いので傷みが早い。小エビや小イワシは、鳥羽や志摩のものに比べ、直ぐにくすんだ色になる。
見た目で選ぶと南の方をよしとする方が多いが、あちらの漁師や料理人があえてくすんだエビを買うほど甘みが違う。しょっぱくない。メーター級のぶりやサワラ、女性の拳より大きいハマグリ、天然ウナギにスッポンまで前浜にはいる。前浜の幸、「一番のオススメは?」と漁師に尋ねると、笑いながらくすんだエビを指した。