まだトリコロールの色も意識していなかった二十歳の頃、師匠の薦めで初めてワインを買った。
細長いスリムな緑色のボトルに黄色いラベル、仏アルザスを代表するヒューゲル社リースリングのハーフボトル。不慣れな手つきでソムリエナイフを使ったが、キャップシールで指を切り、さらに力んでコルクも割った。デビュー戦のほろ苦い思い出。輝きのある緑がかったレモンイエローの液体から立ち上る、生の月桂樹の花と葉っぱのような香り。
ミュゼのテラスに根をはる2本のローリエ(月桂樹)の葉を料理用に摘む際、いつもあの頃の事を思い出す。
人生のワイン街道を歩み出して24年、夢のような大きな仕事が入った。
380年の歴史を誇るヒューゲルの現当主ジャン フレデリック ヒューゲル氏を招いてのメーカーズディナーを開催する事となった。
自分に出来る渾身の料理と数々の上質なワインとのマリアージュ。中でも日本に300本しか輸入していない「シェル ハマー」は全アルザスの最高峰。圧倒的スケールと水遠かと思う余韻に言葉を失う。そして心から想った…、またアルザスに行きたい。
そろそろ折り返しに差し掛かった僕のワイン人生。道はアルザスへとまた延び、ジャン フレデリックとはリクヴィール村での再会と、ワイナリーでのジビエのイベントを約束した。
美術館横0.5haのレストランに根をはる2本のローリエの香りが、あの頃と今 そして未来を繋ぐ。