カエルが泣き出した5月の夕暮れ。いつもなら厨房を飛び回る時間に、僕は川のせせらぎを聞いていた。
人類の危機的状況が生んだポッカリと空いた時間。
暇なランチ営業で残った小アユを針に刺し、糸を垂らして天然ウナギやスッポンに変わらないかという悪童の悪巧みだ。
アタリがあればわかるように竿先には鈴を付け、僕はもう一つの獲物であるいたどりを摘む。
いたどりはこの時期の楽しみで、リンゴと甘く煮てピュレにしたりシャーベットやジュレ、ピクルスやドレッシングなどにも使い、僕の中にある5月の食材カレンダーには毎年必ず登場する。
レストランや飲食店ではごくたまにしか出会わない地味な存在のいたどり。料理の教科書にも載らないような自然との命のやりとりこそ、これからの世代に伝えていきたいと改めて思った。外宮さんの勾玉池で泳いだり釣りをしながら自然から学び育った幼少期の頃からの記憶。
摘み草というごちそうをいただき、あの頃と同じような顔で竿先の鈴を見つめる。