燻した香りは本質を天使にも悪魔にもする…。
ワインに使われる樽を作る際、内側をバーナーで焼き木をしならせ組み立てていく。焼き加減や木の種類、樹齢などによってワインに溶け込む香りや味わいが違ってくる。
安い木の樽で仕込んだワインはフィネスに欠け、大味な甘苦味を呼ぶ。上質な樽はワインに深みと複雑味そして厚みを持たせ、私達を虜にする。
同じように料理人がよく使う燻製。私は軽く煙をまとわす程度にとどめる。どうしても支配的になりすべてが同じ香りになる事に少々抵抗を感じていた。
そんな先入観の中、何気にいただいたスモークチーズに衝撃を受けた。「木の香りがする!」火をつける前のチップも我々日本人が愛する真新しい木の香り。今まで使っていた一般的なスモークチップとは全くの別物。宮川森林組合の方々が生産する、山桜やコナラなどのチップのアロマは大台町の深い山と清い自然が見える。自称「煙の魔術師」だと言っていた未熟な自分。森の精霊から授かった美しいほどの煙は、魔術などではなく一番大切な自然そのものであると気がついた。