休み明けの火曜日、若いスタッフが行う儀式がある。今回は2月に入社したパティシエール(女性パティシエ)がその当番。大きなまな板、私の使い込んだ骨すきと言われる包丁を握りしめ、相手に挑む。
その相手とは赤い羽のひねどり。芸濃町の鳥鹿養鶏園さんが生産する、ブロイラーの10倍ほどストレスなく長生きしていた鶏であり、私たちに健康な卵を産んでくれていました。
毎週15羽のひねどりと卵が届き、ミュゼの多くのメニューに登場する。普通の鶏に比べ焼いて食べると確かに硬い。だが、かみしめるうちに奥からわき出るうま味のボリュームは有名地鶏を凌ぐ。ミンチにしたときの肉々しさ四足にも負けない。だしをとると黄金色に輝く脂の艶と深み。
実はかつて多くの家庭にいたひねどり。毎朝のぞく鶏小屋の卵と来客など特別な日には、肉そのものをいただく。その命のやり取りを見た子どもたちは、心を込めて「いただきます」「ごちそうさまでした」と強く手を合わせる。忘れかけていたおいしさと思い。若いスタッフからの命のバトンを引き継ぎ、感謝の気持ちでフライパンを握る。